第3話:根が伸びて、不安と決意
ゆうとは、机の前でふと立ち止まった。 透明の皿に敷いた湿ったペーパータオルの上で、光るタネは昨日より明らかに変化していた。
タネの底から、白く細い根が一本──まっすぐ伸びている。
「……本当に、根が出たんだ」
驚きと同時に、胸がすこし熱くなる。まるで生まれたての小さな命が「ここにいるよ」とささやくようだった。
でも、ゆうとはそっと息をのんだ。
「根って……すごく折れやすいんだよな。乱暴にしたら、この子が傷ついちゃう」
根は芽より先に出るほど大切で、そしてとても繊細だ——その事実が、ゆうとの胸に重くのしかかる。
「どう育てればいいんだろう……」
ネットで調べても、光るタネの答えは出てこない。普通の植物なら情報はすぐ見つかるが、これは“普通”ではない。
「一人で判断するのは……ちょっと怖いな」
タネは、ゆうとの迷いを和らげるように、またふわりと光を返した。その優しさが逆に、責任の重さを感じさせる。
そのとき、ゆうとの脳裏に懐かしい景色が浮かんだ。展示温室、花壇の道、小さな池、季節ごとの花が揺れる、子どもの頃に訪れたあの植物園の風景だ。
「あそこなら……このタネのことがわかるかもしれない」
ゆうとは小さく頷き、決心する。
「……よし、行こう」
だが持ち上げようとした瞬間、根が揺れ、ゆうとは慌てて手を止めた。
「このままじゃ危ない……どうやって運ぼう……」
しばらく考えた末、ゆうとは新しいペーパータオルを湿らせ、やわらかく包んだ。根が動かないように、そっと丁寧に。
乾燥しないよう小さな容器にやさしく入れ、フタを軽く閉める。
「明日、連れていくからな。ちゃんと見てもらおう、一緒に」
タネは最後に一度だけ、安心したように光をぽっと灯した。
準備は整った。次はいよいよ──あの植物園へ。