第21話:ヒカッパと冬(後編)
植物園での再会
約束の日。ゆうとは、少し早めに家を出て、植物園へ向かった。
冬の植物園は、どこか静かだ。色とりどりの花は少ないが、空気は澄んでいて、落ち着いた時間が流れている。
温室の入り口で、みおな先生が手を振っていた。
軽く挨拶を交わしたあと、ゆうとはヒカッパの写真を見せた。冬に入ってからの変化、不安に思っていることを、ひとつずつ説明する。
「何も起きていないように見えるだけ」
写真を見終えたみおな先生は、少し微笑んでから言った。
「大丈夫ですよ。ヒカッパは、ちゃんと冬を越える準備をしています」
「見えないところで、根を伸ばしているんです」
「冬は、葉や茎を伸ばす季節じゃありません」
みおな先生は、温室の隅にある植物を指差した。
どれも派手ではない。でも、枯れているわけでもない。
「今、余計に水や肥料をあげると、かえって弱ってしまいます」
「この時期に一番大切なのは、環境を変えすぎないことです」
「何もしない」という選択
ゆうとは、はっとした。
何かしてあげなければ。手を加えなければ。それが「優しさ」だと思っていた。
「信じて待つことも、立派な世話ですよ」
その言葉を聞いたとき、ゆうとの胸の奥が、すっと軽くなった。
自分は、ヒカッパの成長を止めていたのは寒さではなく、「早く結果を見たい」という気持ちだったのかもしれない。
冬は、失敗の季節ではない
帰り道。冷たい風に吹かれながら、ゆうとは考えていた。
成長が見えない時間。何も起きていないように感じる時間。
それは、失敗でも停滞でもなく、次の季節のための「準備期間」なのだ。
ヒカッパは、今日も静かにそこにいる。何も変わっていないように見える。
でも、確かに生きている。
今回の学び
冬は何もしなくていい季節。市場が動かない時、成果が見えない時、人は不安になります。
しかし、長期・分散・積立において重要なのは「環境を保ち、続けること」。成長は、いつも見えないところから始まっています。