第1話:光るタネとの出会い
その日は、いつもの帰り道だった。夕暮れが街を優しく包み、商店街のシャッターが静かに閉まっていく時間。
ゆうとは、ふと道端に置かれた古い植木鉢の脇で、淡く光る何かに気づいた。
近づいてみると、それは「タネ」のような形をしていた。直径は小指の先ほど、しずく型で、内側から柔らかく光を放っている。
「……どうして光ってるんだろう」 ゆうとは思わずつぶやいた。最初は街灯の反射だろうと思ったが、違った。光は内側から、まるで小さな鼓動のように揺れていた。
恐る恐る手に取ると、タネは温かさを帯び、ほんの少しだけ光を強めた。伝わってくるのは、驚きでも恐怖でもなく、どこか穏やかな安堵のようなものだ。
「誰かの忘れ物かな……?」 周囲を見渡したが、人影はない。奇妙な景色に戸惑いながらも、ゆうとの胸には不思議な感覚が芽生えていた。放っておけない、と。
なんとなく、ゆうとはタネをそっとポケットにしまった。家に持ち帰って様子を見よう——そんな軽い気持ちだった。
家へ帰る道すがら、ゆうとは何度もポケットの中を手で押さえた。タネは、たしかにそこにいる。暖かく、微かに光っている。
「どうなるか分からないけれど……まあ、まずは見てみよう」 そんな呟きを自分に言い聞かせながら、ゆうとは足を速めた。
※ここではまだ光るタネに名前をつけません。出会いの瞬間――静かな序章としての場面です。次のお話で、水耕栽培から育てる日常が始まります。