第5話:芽生えと植え替え
ヒカッタネを水耕で育て始めてから、二週間ほどが経った朝。 ゆうとはいつものように容器を覗き込み、思わず息をのんだ。
ペーパータオルの隙間から、薄く緑がかった小さな芽が顔を出している。 その先端は、朝の光を受けてふわりと輝いていた。
「……芽が出たんだ」
タネのときとは違う、生命の始まりを知らせるような光。 成長の節目をみおな先生に必ず報告したい、そう思っていた。
研究室のドアをノックし、案内を受けて中に入る。 「みおな先生、こんにちは。ヒカッタネに芽が出たんです。お尻から尻尾のような根も出ています。見てもらえますか?」とゆうとは容器を差し出した。
「とても健やかね。あなたが丁寧に扱ったことがよく分かるわ」 みおな先生のやさしい言葉に、ゆうとはほっと笑った。
「タネのときは『ヒカッタネ』と名づけました。 芽の段階では……名前をどうしましょう?」
みおな先生は少し考え、うなずいた。 「音の軽さが芽に合うわね。“ヒカ”は残して、“ぱ”の響きなんてどう?」
ゆうとは一瞬で気に入り、笑顔になる。 「じゃあ……『ヒカッパ』はどうですか? 光る芽、みたいな感じで」
「ヒカッパ……かわいいわね」とみおな先生が微笑む。
「次はどう育てればいいのでしょう?」 ゆうとの問いに、みおな先生は少しだけ表情を変えた。
「……それはね。実はあなたの生活の積み重ねにも関係してくるの。 まずは、鉢に植え替えね。良い鉢と土ならあるわ、こっちにおいで」
ペーパータオルをそっとめくり、湿らせた土を入れた小さな鉢に、そのまま芽を移す。 土に触れた芽は、ぽっと光を増した。新しい場所を喜ぶかのように。
「続きはまた来た時に話しましょう」
(注:芽の名前「ヒカッパ」が正式に決まりました。次回、第6話は育て方の相談と、大きな“つながり”が明らかになります。)